副業を許可はするべきか?導入時の労働時間の管理方法や情報漏洩リスクについて社労士が事例を元に解説

副業について
皆さんこんにちは。
日本産業医社会保険労務士法人の津守です。
本記事では、労務管理に関する様々な事柄について、わかりやすく解説しています。
本日のテーマは「副業について」です。
かつての日本企業ではいわゆる副業はタブーとされていました。しかし経済環境や労働者の意識が変化するにつれて、大企業を中心に副業解禁の波が広がりつつあります。
社員のキャリアの多様化や働き方改革の推進により、副業を希望する社員は増加傾向にありますが、その一方で、労働時間の管理や情報漏洩リスクなど、企業側の不安も根強く存在します。
この記事では、副業許可に関する基本的な考え方から、実務的な対応策まで、人事担当者が押さえるべきポイントをわかりやすく解説します。あなたの企業にとって最適な副業許可のあり方を見つけるヒントにしていただければ幸いです。
この記事における副業の定義
近年、副業は人事担当者にとっても重要なテーマとなっています。この記事では、副業を「正社員としての本業を持ちながら、アルバイト、業務委託、フリーランス活動、または自身のビジネス運営などで収入を得る活動」と定義します。
副業の種類は実に多岐にわたり、ライティングやデザインといったクリエイティブな仕事から、オンラインショップの運営、講師やコンサルティング業務など、社員のスキルや興味によってさまざまです。人によっては、副業の一環でYoutuberとしての活動する方もいるかもしれませんね。
特に最近では、コロナ禍を契機にリモートワークが普及したこともあり、時間や場所に縛られず柔軟に働ける環境が整ったことで、副業に取り組む社員が急増しています。経済環境の変化や働き方改革の影響で正社員の給与水準が停滞しているなか、副業は収入を補完する手段として注目を集めると同時に、社員のキャリア形成やスキルアップにもつながる可能性を秘めています。
日本における副業の現状
公営財団法人産業雇用安定センターによる2023年の調査によると、副業を認めている企業の割合は約3割に上ります。かつて日本企業では終身雇用が主流だったため、副業を禁止するケースが多く見られました。しかし近年、一部の先進的な企業では副業を推奨する動きが広がっています。同調査では出向を受ける場合の対象業種としてのアンケート結果も記載されており、IT(DX等)、技術指導、システム開発に強い外部人材に対するニーズが高いようです。
副業解禁は、社員のスキル向上やキャリア形成を促進するだけでなく、企業自体の競争力強化にも寄与する可能性があります。副業を制度として導入することは、働き方改革の推進や、社員満足度の向上を目指す企業にとって重要な施策となりつつあります。
副業禁止と法律の関係について
日本では副業を禁止している企業が多いように見受けられますが、民間企業に勤務する労働者の副業を禁止する法的な規定はありません(公務員の方は法的な制限があります)。
そもそも労働契約で労働者に何らかの命令を出せるのは「就業時間」だけですので、就業時間外に何をしても労働者の自由ということになります。
それでは何故副業が日本に普及しなかったのでしょうか。
その答えは就業規則にあります。
就業規則はその会社の労働者に適用される規範であり、一定の条件を満たすことで法律のような効果をもたらします。そして多くの企業では就業規則に副業の制限をかけているため、無断で副業を行った場合に懲戒処分を受けることがあるのです。その結果として副業を積極的に行おうとする社員が少数であったため、副業が一般的ではなくなったわけです。
日本の会社が副業を制限している理由はいくつかありますが、そのなかでも大きな位置を占めるのは、「自社の業務に集中してほしいから」というものがあります。
副業は単なる趣味ではなく収入を得るための手段ですから、それなりの体力を使います。そうなると、疲労が蓄積して本業に身が入らなくなることを会社が恐れているのです。
逆に言えば、自分の体力に余裕がある範囲内であれば副業を許容する余地があることになります。
もちろん、副業を禁止する理由は他にもあり、自社の機密情報が漏洩することや、自社と同じ業務を始められると会社に損失が出ると心配する声も根強くあります。しかし、それに関しては労働契約を締結した段階で自然に守秘義務と競業避止義務がついてくるため、そうした行為があった場合には訴訟を提起すればよいことになります。どうしても心配であれば、副業を許可する際に、守秘義務と競業避止義務について説明し、これに違反しないという誓約書を提出させればよいと思います。
副業を許可するメリット
社員の成長とスキルアップ
社員が副業を始めると、本業では得られないスキルや経験を積む機会が生まれます。
例えば、経理部門の社員が個人事業を始めた場合、プレゼンテーション能力や交渉力、マーケティングスキルなど、新たな能力を開発する可能性があります。こうしたスキルは本業にも還元され、社員の成長が企業全体のパフォーマンス向上につながります。
また、他業種や異なる職種での経験を通じて視野が広がり、企業に新しいアイデアや価値をもたらす効果も期待できます。
柔軟な働き方の実現
副業を許可することで、フルタイム勤務が難しい優秀な人材を確保することが可能になります。たとえば、家庭の事情や介護などで働ける時間が限られている人でも、副業の併用により、収入を補いつつ働ける環境を提供できます。
こうした柔軟な働き方を実現する企業は、ポジティブなブランドイメージを築き、優秀な人材の採用や定着にも寄与します。
副業を許可するデメリット
労働時間管理の課題
副業を許可する際、企業にとって最大の課題は労働時間の管理です。労働基準法によると、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える部分には割増賃金を支払う義務があります。そして、副業をして2箇所の職場で働く場合には、これらの労働時間を通算し、法定労働時間を超えた部分には割増賃金を支払う必要があります。この労働時間の通算は少し複雑なので、次項で説明します。
安全配慮義務のリスク
企業は社員が健康を損ねないよう配慮する義務があります。これを安全配慮義務といいます。特に、副業を許可している場合、労働時間の過多や業務負荷が原因で社員が健康を害した場合には、安全配慮義務違反として責任を問われる可能性があります。
そのため、勤怠状況や健康状態を定期的に確認し、必要に応じて産業医の面談や業務時間の見直しを行うことが重要です。パフォーマンスの低下や体調不良の兆候が見られた場合には、副業時間の制限や副業の中止を検討する必要があります。
情報漏洩のリスク
副業によって競業他社や類似業界で働く場合、情報漏洩や競業避止義務違反のリスクが生じます。そもそも労働契約には「秘密保持義務」や「競業避止義務」が含まれると解釈されていますが、社員に自覚を促すためにも、あらかじめ競業避止契約や秘密保持契約を締結することを推奨します。また、社員が副業で本業の機密情報を誤って利用しないよう、ガイドラインを定めて注意喚起を行うことが重要です。
労働時間の通算方法
原則的な通算方法
ここでは労働時間の通算方法について説明します。通算方法には原則的な通算方法と、管理モデルを用いた通算方法の2つがあります。
この項では本業のA社と副業先のB社の2つの職場で働いている社員を想定して、原則的な通算方法を説明します。
■原則的な通算方法
- A社とB社の所定労働時間を、労働契約を結んだ順に通算する。
- A社とB社の所定外労働時間を、働く時間帯の順に通算する。
- A社とB社が、それぞれ法定労働時間を超えた部分について割増賃金を支払う。
こうした類のものは具体例を見たほうがわかりやすいため、下記の例題を用いて解説いたします。
<例題>
もともとA社で働いていた社員が、新たにB社で働くことになった場合
<条件>
A社(先契約・先労働):①所定労働時間3時間、③所定外労働3時間
B社(後契約・後労働):②所定労働時間3時間、④所定外労働2時間

<解説>
最初に所定労働時間どうしを通算します。A社での労働契約が先なので、①→②の順で合計するので、3+3=6時間となります。ここまででは、法定労働時間(1日8時間、週40時間)の範囲内にあるため、A社とB社は割増賃金を支払う必要はありません。
次に、所定外労働時間どうしを通算します。この例ではA社での所定外労働が先で、B社の所定外労働が後に行われていますので、③→④の順で合計します。その結果、3+2=5時間となります。
最後に、法定労働時間を超えた時間を把握して、割増賃金を支払うことになります。先程の所定労働時間と所定外労働時間を合計すると6+5=11時間となり、法定労働時間を超えてしまいます。この場合、割増賃金を支払うことになるのですが、ここで通算の順序が重要になってきます。
例題では、A社の所定外労働時間が先にくるため、所定労働時間6時間に、A社の所定労働時間3時間を足します。すると、A社の所定外労働時間3時間のうち、2時間分は法定労働時間(8時間)の中にあり、1時間分は法定労働時間を超えた部分となります。そのため、A社は1時間分の割増賃金を支払います。
そしてA社の所定外労働をした段階でこの日の法定労働時間を超えていますが、さらにBの社で2時間働くと、この2時間全てが法定労働時間を超えた部分になります。つまり、B社は2時間分の割増賃金を支払います。
例題では、A社は所定外労働を3時間させ、B社は所定外労働を2時間させています。しかし、働く時間帯の順番によって、割増賃金を支払う時間数に差が出てしまうことになるわけです。その意味で、労働契約の順と時間帯の順は非常に重要といえます。
管理モデルを用いた通算方法
「管理モデル」とは、自社の社員が副業するときの手続上の負荷を軽減するために用いる労働時間管理の方法です。ここで定めた労働時間の上限を超えない限り、副業先の実労働時間を把握することなく法律を守る事ができます。この方法を用いる手順は以下のとおりです。
■管理モデルを用いた通算方法
- 先に労働契約を結んだA社と、後に労働契約を結ぶB社での間で、それぞれ労働できる時間を設定します。このときA社は法定外労働時間の上限を決め、B社は法定内と法定外の労働時間合計の上限を決めます。
- ①で決めた各社の労働時間の上限を合計して、単月100時間未満、複数月平均80時間以内とします(複数月平均時80間以内とは、時間外労働と休日労働の合計について「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」を全て1か月あたり 80 時間以内にしなければならないという意味です)。
- 先に労働契約を結んだA社は法定外労働時間を超えた部分に対して割増賃金を支払います。一方、後に労働契約を結ぶB社は、法定内と法定外の労働時間合計すべてについて割増賃金を支払います。
管理モデルについても、例題を用いて解説いたします。
<例題>
もともとA社で働いていた社員が、新たにB社で働くことになった場合。
<条件>
A社(先契約・先労働):①所定労働時間3時間、③所定外労働3時間
B社(後契約・後労働):②所定労働時間3時間、④所定外労働2時間

<解説>
管理モデルを用いた通算方法では、先に労働契約を結んだ会社と、後に労働契約を結んだ会社で割増賃金の支払い方が異なります。
A社では法定労働時間を超えた部分だけに割増賃金を支払います。例題では、所定3時間+所定外3時間の合計6時間ですので法定労働時間を超えていません。そのため、A社は割増賃金を支払う必要はありません。
一方、B社は労働時間全体が割増賃金を支払うことになっています。例題では所定3時間+所定外2時間の合計5時間しか働いていませんが、この5時間すべてに割増賃金が発生します。
管理モデルを用いることでA社は自社の労働時間を管理すれば良いため、副業に関する手続き上の負担を減らす事ができます。一方で、副業先にとっては割増賃金の負担が増えることになるため、本業の会社と副業先、社員の3者で労働条件を共有することが必要です。
副業を認めるための4つの手続き

副業を許可する際には、法令遵守や社員の健康管理だけでなく、自社の利益や秩序を守るための適切な準備が必要です。以下に、具体的なステップと注意点を解説します。
就業規則の整備
副業を認めるにあたって、就業規則や副業の規則を整備することが重要です。副業の可否やルールを明文化することで、企業と社員双方が守るべき事項が明確になります。
一方で、副業に関する規定が不十分だと、社員に指導や懲戒処分を行えないケースもあります。例えば、副業に注力するあまり自社の業務をおろそかにする職員が出現した場合でも就業規則が不十分な場合には懲戒処分を下すことができないという自体が発生します。
就業規則の整備は、こうしたトラブルを防ぐためにも重要なのです。筆者は副業に関する規定を就業規則に入れ込む際には、以下の点を盛り込むことを推奨しています。
- 副業開始の手続き:事前申請と許可制の導入
- 禁止事項:競業避止義務や秘密保持義務違反の防止策
- 業務専念義務の確認:副業が原因で本業がおろそかにならないよう規定
- 懲戒規定の追加:ルール違反や業務に支障をきたす場合の対応策
副業の申請手続き
社員が副業を行う際は、事前申請制として以下の情報を提出させるのが一般的です。
- 副業先の名称と所在地
- 業務内容
- 労働時間の予定
企業はこれらの情報を基に、労働時間の通算や業務内容が自社に影響を与えないかを確認します。また、社員の自己申告だけでなく、副業先から労働時間に関する証明書を提出させるなど、客観的な管理方法を取り入れることも検討すべきです。
健康管理
副業による長時間労働は、社員の心身に大きな影響を与える可能性があります。企業には、安全配慮義務の観点から、社員の健康状態を把握し、必要な措置を講じる責任があります。
ここで、社員の健康管理のポイントを提示します。
- 勤怠データのチェック:遅刻や欠勤が増えた場合、疲労やメンタルヘルスの不調を疑う。
- 健康診断の実施:社員が副業の影響で体調を崩すリスクを早期発見する。
- 面談やカウンセリング:管理職や産業医が社員の状況を確認する場を設ける。
過去の判例では、社員からの申告がなくても健康状態を把握し、適切な対応をしなかった企業が責任を問われたケースがあります。定期的な健康チェックを通じて社員の状態を把握し、副業の見直しを含む必要な措置を検討することが求められます。
税務への対応
副業を行う社員には、確定申告の義務が発生する場合があります。企業としては、社員に以下の点を周知することが重要です
- 副業収入に対する税金:一定額以上の収入がある場合、申告が必要であること。
- 申告に関するサポート:税務署への相談を促すなど、基本的な手続きの案内。
筆者は税理士ではないため、税務に関する事項についての明言はできません。しかし、副業を行う場合は国民の義務である納税についても事前に把握し、適正な手続きをしていただければと思います。なお、筆者も確定申告を初めて行った際には不明な点が多々ありましたが、地元の税務署では非常に丁寧に教えてくれました。税務署の職員の方は、(適切な納税をする)市民には非常に親切に接してくれますので、不明点があればお近くの税務署へご相談していただくことをおすすめします。
副業のトラブル事例と対策方法

ここまで「副業」について説明してまいりましたが、最後に「副業」に関する事例について紹介させていただきます。
小川建設事件 東京地裁昭和57年11月19日決定
概要
Y社は総合建設業や土木建築工事業を主な事業内容とした中堅企業です。労働者Xは事務職として勤務していました。労働者Xは、午前8時45分から午後5時15分まで勤務していましたが、同時期にキャバレーで午後6時から午前0時までの時間帯に副業を行っていました。
Y社の就業規則では「会社の承認を得ないで在籍のまま他に雇われたとき」を懲戒処分の対象としていたため、副業が発覚したことにより労働者Xは解雇されました。これを無効として地位保全等を求める仮処分申請を行いましたが、結果として、労働者は敗訴しました。
敗訴の理由
- 就業規則の合理性
一般に労働時間以外は労働者の自由な時間ですが、この時間は精神的・肉体的な疲労を回復させて次の労働日にも労働することができるための基礎的条件であり、会社が一定の関心を持つことがやむを得ないことを指摘しました。これと合わせて、兼業内容によっては企業の体外的な信用が傷つけられることもあるため、副業を事前申告制にしていた就業規則は合理性があるとしました。 - 解雇の相当性
労働者Xが会社に無断で副業したこと自体が、会社との信用関係を破壊する行為であり、しかも1日6時間の副業をしていることは本来業務に何らかの支障をきたす可能性があったとしました。そして、会社側の資料によると、日中に居眠りが多く、残業を拒否する態度が見られており、本業にも支障をきたしていたことを重視しました。判決文では、「二重就職の影響か否かは明らかではない」としていますが、1日13時間以上働いているとなると、週休2日制で4週間働いたとすると、残業が120時間となり、過労死水準を超えています。そのため、副業によって本業のパフォーマンスの低下があった可能性は高いと思います。
教訓
勤怠不良や勤務態度に問題がある社員には、本人から事情を聴取し職場外での要因がないかについて質問する(体調不良によって勤怠不良が生じている場合には受診勧奨を行う)。
副業が事前申告制であることを就業規則等に定め、社内に周知する。
まとめ
本日は、「副業」について解説しました。
副業の許可は、社員の多様な働き方を支援し、企業としての魅力を高めます。一方で、労働時間の管理や健康管理などの労務管理上の課題も伴います。
こうしたリスクを軽減しながら副業を効果的に活用するためには、就業規則の見直しや副業制度の構築が必要となります。本記事が貴社の副業制度を考える上での参考にしていただければ幸いです。なお、実際に副業制度を開始する際は社会保険労務士や弁護士、医師などの専門家への相談をおすすめします。
当法人では、社員トラブルに関する幅広いご相談を承っております。パワハラや労働問
題、職場の人間関係に関する悩みなど、企業様が直面するさまざまな課題に対して、専門的なアドバイスと実務的なサポートを提供しています。
お困りのことがあれば、ぜひお気軽にご連絡ください。
<参考>
・社員の「副業・兼業」に関するアンケート調査結果の概要 https://www.mhlw.go.jp/content/11703000/001145565.pdf
・副業・兼業における労働時間の通算についてhttps://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001086159.pdf
・全基連https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/00839.html
・裁判所https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/394/019394_hanrei.pdf
文責:津守孝彦
最終更新:2024年11月21日